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理化学研究所

田原分子分光研究室 Molecular Spectroscopy Laboratory

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フェムト秒・ピコ秒時間分解蛍光分光法によるタンパク質側鎖の運動と水和ダイナミクスの研究

生体高分子が機能する上で、その「柔らかさ」は複雑分子に特有の問題として重要です。水中で機能するタンパク質では特に、タンパク質と周囲の水分子のダイナミクスの連関に興味が持たれています。そこで私たちは時間分解蛍光分光法を応用して、フェムト秒からナノ秒の時間領域でタンパク質側鎖と周囲の水分子の運動の様子を系統的に比較する実験を行いました[1]。


動的ストークスシフトの測定に用いたフェムト秒(左)・ピコ秒(右)時間分解蛍光分光装置

側鎖の運動の計測にはタンパク質(barstar)にラベルした蛍光プローブ(acrylodan)の回転緩和による蛍光異方性減衰を用い、水分子の緩和は蛍光プローブの動的ストークスシフトの測定により見積もりました。これらの運動の時間スケールはともにプローブのラベル位置とタンパク質の構造状態(天然状態、変性状態、凝集状態およびプロトフィブリル状態)によって変化しましたが、これらのダイナミクスは時間スケールが大きく異なるにもかかわらず(回転:0.1-3ナノ秒、水和:20-300ピコ秒)、サンプル間での変化に強い正の相関が見られました。この結果はタンパク質のダイナミクスと水分子のダイナミクスが結合していることを強く示唆していると考えられます。

*本研究はインド・タタ基礎研究所のG. Krishnamoorthy教授、J. B. Udgaonkar教授のグループとの共同研究です。

[1] “Exploration of the Correlation between Solvation Dynamics and Internal Dynamics of a Protein”, A. Jha, K. Ishii, J. B. Udgaonkar, T. Tahara and G. Krishnamoorthy, Biochemistry 50, 397-408 (2011).