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理化学研究所

田原分子分光研究室 Molecular Spectroscopy Laboratory

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蛍光寿命の揺らぎを観る新しい蛍光相関分光法の開発

複雑分子のダイナミクスに対する新たな分光学的アプローチとして、蛍光寿命の揺らぎを観測することができる新しい蛍光相関分光法を開発しました[1]。FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)などの現象を利用すると、生体高分子のような複雑な分子の構造を蛍光プローブの蛍光寿命を通して観測することができます。これを蛍光相関分光法と組み合わせて微小領域内の少数の分子の蛍光寿命を継続的に測定することで、複雑分子の構造の多様性・揺らぎを蛍光寿命の違いとして検出します。


蛍光相関分光法を利用した蛍光寿命揺らぎ検出

これを応用すると、下図のように系内に含まれる不均一性を予備知識なしに検出することができます。この原理は不均一性が時間と共に揺らぐ場合にも応用でき、その場合ある時間スケールより長い時間で平均してみると不均一であった成分同士が区別できなくなる様子が見えてきます。この時間スケールの計測により複雑な分子の構造ダイナミクスをとらえることができます。


蛍光寿命重み付き蛍光相関分光法による不均一性の検出
(左右)2種の色素の純溶液で測定した蛍光相関信号と蛍光寿命重み付き蛍光相関信号
(中央)色素混合溶液で測定した蛍光相関信号と蛍光寿命重み付き蛍光相関信号

複雑な分子のダイナミクスでは特に、外部からの刺激によって開始させることができないような自発的なダイナミクスの計測と評価が重要になります。一般にこのようなダイナミクスを捕捉するには単一分子レベルの分光法が有効ですが、その中でも蛍光相関分光法はナノ秒からマイクロ秒の現象を観測できる高い時間分解能をもつことが知られています。そのため、本手法はこの時間領域で複雑分子のダイナミクスを研究するための有力な手段になると期待されます。

[1] “Resolving inhomogeneity using lifetime-weighted fluorescence correlation spectroscopy”, K. Ishii and T. Tahara, J. Phys. Chem. B 114, 12383-12391 (2010).